岐阜発!温泉博物館第16話 岐阜県の主な温泉地
(1) 火山性の温泉
県内の火山性の温泉は、新穂高温泉、平湯温泉、新平湯温泉、福地温泉、栃尾温泉など奥飛騨温泉郷の温泉、濁河温泉、大白川温泉とそこから引湯している平瀬温泉、下呂温泉などです。
- 1. 奥飛騨温泉郷
奥飛騨温泉郷の温泉は現在も活動を続けている焼岳火山を熱源としていると考えられており、いずれも高温の温泉が湧出しています。平湯温泉からは100℃を越える源泉が湧出しているほどです。
泉質は、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉、単純硫黄泉、単純温泉などです。新穂高温泉や平湯温泉の一部の単純硫黄泉では、県内ではめずらしく白濁することもあります。
平湯温泉などでは、温泉の湧出口付近にバイオマット(微生物皮膜)が生成されたり、温泉を満たした浴槽の湯の表面に油膜状のバイオフィルムが生成され、温泉街の至る所で観察することができます。特に油膜状のバイオフィルムを見て、「油が浮いている」と勘違いする人がいますが、手を触れてみると油のように全然べとつきませんので、油ではないことがわかります。これらのバイオマットやバイオフィルムは決して害のある物質ではなく、むしろ、天然の温泉ならではの証で、温泉らしさを醸し出しています。
新平湯温泉の上地ヶ根地区には、かつて湧出した温泉による大量の石灰華が堆積しています。この石灰華の中には木の葉などが炭酸カルシウムによってコーティングされたいわゆる木の葉石を産出します。この石灰華は中に含まれる木片などから炭素の同位体によって年代測定がなされており、おおよそ奈良時代かその前後に形成されたと推測されています。
奥飛騨温泉郷は全国屈指の湯量を誇り、高温で豊富な湯量を利用した風光明媚な露天風呂が多いことで全国的に知られています。
- 2. 大白川温泉及び平瀬温泉
白川村の大白川温泉や平瀬温泉は、白山火山を熱源とする温泉です。大白川地区の地獄谷には白山火山の熱水変質帯が広がっており、高温の蒸気等を噴出する噴気孔、高温泉の自然湧出、温泉華の生成といった温泉現象が見られます。
温泉の湧出は少量ながら至る所から認められ、泉温は19.2℃~92.2℃(気温23.8℃)、pHは4.2~6.7と変化に富んでいます。県内には登録されている温泉に酸性泉はありませんが、地獄谷の大自然の中に弱酸性の温泉が存在することになります。
温泉の湧出場所やガスの噴出する辺りには、温泉から沈殿した硫黄華やガスから昇華した硫黄華、鉄明礬などの温泉華が生成されています。また、熱水変質帯一体には硫化水素臭が漂っています。
大白川の白水湖畔において、地下から少量の温泉とともに噴出する高温の蒸気に水を通して温泉(含硫黄-ナトリウム-塩化物泉)を造成しています。造成された温泉は大白川温泉の露天風呂等で使用される他、13㎞程離れた平瀬温泉に引湯され使用されています。
- 3. 濁河温泉
下呂市小坂町の濁河温泉は、御嶽山の岐阜県側の登山道の7合目に位置する温泉で、通年を通して営業している温泉街としては日本一標高の高い所にあります。
御嶽火山を熱源としており、泉質はナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉などで、県内ではめずらしく芒硝(硫酸ナトリウム)を多く含む温泉です。鉄分も含まれるため茶色く濁っています。
濁河温泉付近の谷には温泉が自然湧出している所が点在しています。いずれも比較的低温で、湧出量も多くはありませんが、谷底や谷岸の斜面などに硫黄や炭酸カルシウム、硫酸カルシウムの温泉華を形成していることが多いので、温泉の湧出を認めることができます。
濁河温泉付近の材木滝の右岸には、温泉沈殿物によって幅約30m、長さ20mの大規模な棚田状の石灰華ドームが形成されています。天然の石灰華ドームとしては国内でも有数の大きさです。
- 4. 下呂温泉
源泉の多くがアルカリ性単純温泉ですが、重曹を比較的多く含んでいる所が多く、入浴すると肌がつるつるするのが特徴です。また、ほのかな硫化水素臭があり、温泉情緒を醸し出しています。
下呂温泉の熱源については、はっきりとはわかっていませんが、御嶽火山より極めて近くに存在する湯ヶ峰火山岩体(今からおよそ10万年前に噴出したと考えられている)が地中で完全に冷え切っておらずに下呂温泉の熱源となっている可能性が示唆されています。
2004年4月、下呂温泉に日本でも大変めずらしい温泉専門の博物館である「下呂発温泉博物館」がオープンしました。温泉の科学や温泉の文化に関わる様々な資料が展示され、詳しい解説がなされている上、温泉関係の書籍や論文等も集められており、温泉の普及に大きな役割を果たしています。
(2) 非火山性の温泉
- 1. 比較的古くからある温泉
この他の県内の温泉は、ほとんどが非火山性の温泉です。非火山性の温泉で昔から知られている歴史の古い温泉の多くは泉温が25℃未満の冷鉱泉です。
下呂市小坂町の湯屋温泉や下島温泉、下呂市乗政の乗政温泉では含二酸化炭素-ナトリウム-炭酸水素塩泉、含二酸化炭素-ナトリウム-塩化物泉が湧出します。これは炭酸ガスを多く含む天然の炭酸水で、昔から「サイダー泉」と呼ばれていました。
岐阜市の三田洞神仏温泉やそこから引湯している長良川温泉、飛騨市古川町のたんぼの湯(気多温泉)、高山市朝日町の秋神温泉などは単純鉄(Ⅱ)泉(炭酸水素型)で、鉄分を多く含むため浴槽では茶色い湯になっています。湧出したばかりは透明に近い色なのですが、空気に触れると酸化するために、時間と共に茶色が濃くなっていきます。
加茂地区南部から東濃地方にかけて分布する温泉は、もともと放射性元素を含んでいる花崗岩の岩体の中から湧出しているため、大部分が単純放射能泉となっています。
- 2. 近年新しく掘削して得られた温泉
県内でもここ30年ぐらいのうちに温泉の数が急増しました。特に各市町村がこぞって温泉を掘削し、公共の日帰り温泉施設があちこちにできました。
これらの温泉の多くは1000m以上の大深度掘削を行って地下にある深層熱水を汲み上げているものです。泉温は25℃~42℃ぐらいの低温泉が大部分を占めます。
泉質は単純温泉の他、ナトリウム-炭酸水素塩泉、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉、ナトリウム-塩化物泉などで、重曹や食塩を成分として含んだ比較的似たような泉質になっています。特に重曹を多く含む温泉では、入浴すると肌がつるつるする傾向にあります。
下島温泉の日帰り入浴施設「ひめしゃがの湯」は、鉄分や炭酸ガスを多量に含む成分の濃いナトリウム-炭酸水素塩泉が間欠的に自噴しています。泉源から温泉水がオーバーフローする所では、鉄分を含む大量の石灰華を沈殿させており、いわゆる“木の葉石”やリムストーンの形成を目の当たりにすることができます。