岐阜発!温泉博物館第20話 美濃地方につるつるの温泉が多いわけを考える
数十年前は、「つるつるの温泉」というと、美人の湯として全国に有名になりました。裏をかえすと、「つるつる」という泉質的な特徴がめずらしく、注目される存在だったと言えます。それが現在はどうでしょうか。全国津々浦々に美人の湯といわれるような「つるつるの温泉」が存在しているではありませんか。そして、みなさんご存知のように、この岐阜県には美人の湯と呼ばれるようなつるつるの温泉が特にたくさんあります。
岐阜県にあるつるつるの温泉のうち、下呂温泉のように昔から自然に湧き出していた温泉はごく稀で、大部分が近年、1000m以上の大深度掘削によって新しく開発された温泉です。池田温泉、谷汲温泉、美人の湯しらとり、明宝温泉、中津川温泉……、数えだしたらきりがないほどです。
これらの温泉の共通点は以下のようです。
- つるつるの原因が、ナトリウムイオンや炭酸水素イオンによる重曹成分である。
- いずれも、1000m以上のいわゆる大深度掘削の温泉である。
- 地下の至近エリアに炭酸カルシウムを含む石灰岩などの岩石が分布している可能性がある。
このような美濃地方や南飛騨地方の温泉がつるつるになるメカニズムとして、次のような仮説を立ててみました。
- ①第1段階
地下の一部の岩石(石灰岩等)から地下水に炭酸カルシウムがとける。
- ②第2段階
地下の広範囲に分布する岩石に、粘土鉱物や沸石類が含まれていると、Ca2+ を含んだ地下水と接触して、Ca2+ と Na+ とが「陽イオン交換」を起こす。
- ③第3段階
陽イオン交換により地下水中のCa2+が取り除かれると、Ca2+に対して飽和状態でなくなるので、岩石から再び炭酸カルシウムが溶け出す。これを繰り返すと、地下水中に徐々にNa+ と HCO3- が増えていき、Na+ HCO3- 泉(重曹泉)または、重曹を主成分とするアルカリ性の単純温泉が生成される。
反応がストップせずに地下深くで重曹成分の温泉が生成されるためには、地下水が長い距離を移動して、常に新しい岩石と接触し続ける条件が必要となります。そのために、1000m 以上の大深度掘削はその条件を満たすため、重曹成分の温泉(つるつるの温泉)が湧き出すことになると考えられそうです。
幸い、美濃地方には、美濃帯と呼ばれる「プレートが大陸の縁に付加して出来た岩体」が広く分布しており、岩体一帯に石灰岩がブロック状に幅広く点在しながら取り込まれています。この石灰岩が地下水に炭酸カルシウムをとかす供給源になり得ると考えられます。
また、付加体の岩石であるために逆断層や褶曲などの構造をもち、断層が網の目状に分布しているため、地下水の通り道に粘土鉱物などがも存在する可能性が高いと考えられます。
こうしたことから、美濃地方や南飛騨地方のつるつるの温泉の原因を考えることが出来そうです。
余談ですが、重曹の水溶液は65℃に達すると、さらにアルカリ性の強い炭酸ナトリウムの水溶液に変化する性質があります。温度の低い温泉を加熱利用する施設では、よりアルカリ性の強い炭酸ナトリウムが生成することにより、よりつるつる感が増すことがあります。