岐阜発!温泉博物館第21話 自分で温泉を観察しよう
最近でこそ温泉雑誌などの温泉情報も、温泉を理解した編集者によって正しい情報が掲載されるようになってきましたが、インターネットのホームページやパンフレットなど、まだ依然として誤った情報が掲載されている傾向があります。
「この温泉がどのような温泉なのか」という情報を頼ることができないなら、一層のこと、自分で観察してみてはいかがでしょうか。
温泉のお湯を観察するポイントには、お湯の温度、臭い、肌ざわり、味、色、湧き出す音などが挙げられます。いわゆる五感を駆使して観察できる事柄です。
まずはお湯の温度です。浴槽に人差し指を突っ込んで「何度かな」と温度を推測します。次に実際に温度計で温度を測り、「このくらいの熱さだと何℃」という学習をし続けます。観察に慣れてくると、浴槽に指を突っ込んだだけでもおおよその温度がわかるようになるので大変便利です。ただし、「温泉の成分が濃いほど、お湯がぬるく感じる」ことが明らかになっていますので、濃い温泉の場合は、実際の指の感覚+α℃の補正が必要です。
次はお湯の臭いです。お湯の臭いを嗅げば、硫化水素臭なのか、金気臭なのか、石油臭なのかといった臭いで、硫化水素や鉄分、油分などの含有成分がわかります。さらに、塩素系消毒の有無やその濃さまでわかります。塩素消毒剤そのものはそれほど強い臭いではないのですが、お湯が汗などで汚れだすと、汗の成分であるアンモニア性窒素と塩素とが反応して結合塩素(クロラミン)を生成します。この結合塩素の臭いが、いわゆる「プールの消毒の臭い」として記憶されているような刺激臭の原因となります。塩素が結合塩素に変化すると、殺菌力が極めて低下するので、お湯の臭いを嗅ぐことにより殺菌効果の状況までわかることがあります。
温泉の肌ざわりでは、つるつる感、べとべと感、ひりひり感といった感覚を識別することができます。また、おおよその含有成分を予想することができます。女性に人気の「つるつるのお湯」は、その多くが成分として重曹を含む温泉です。入浴して何秒かすると、皮膚につるつる感を感じるようになります。重曹の成分が多くても、食塩など他の含有成分との兼ね合いでつるつる感を感じない場合もあります。他の温泉とつるつる感を比較する場合は、入浴してしばらく時間をおいてから、体の同じ場所でヌメリ感を比較するとよいでしょう。ありそうでない「つるつる温泉」番付などにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
飲用できる温泉であれば、湧き出したばかりの新鮮なお湯を口に含んで味を観察することをお勧めします。飲むのではなく舌の上で転がすように味わうことによって、舌の全ての感覚部分を使って、苦味、渋味、鹹味、酸味などを観察できます。含有成分には特有な味があり、慣れることによっておおよその成分や濃さを推測することができます。
温泉の色は、お湯の鮮度や成分の種類を知る手がかりになります。モール泉と呼ばれる黒褐色の温泉などを除いて、色のついた温泉のほとんどは、湧き出したばかりは無色透明で、時間の経過とともに空気中の酸素と接触するなどして色を呈するようになります。乳白色の温泉の場合、湧き出したばかりは無色透明ですが、時間の経過とともに温泉中の硫化水素が酸素と結びついて硫黄が生成され、太陽光によるミー散乱を生じ、白色を呈します。また、一週間ほどの間隔で、無色透明から青色、白濁と変化する温泉も知られています。したがって、こういった温泉は、色の具合によって温泉の湯の鮮度がわかるという訳です。
目で観察するものは色だけではありません。温泉中の湯の華の有無や形や色、浴槽や浴室の床に付着したスケールの種類や量なども泉質を見極める重要な情報となります。
このように、温泉を観察したら、その後すぐにメモをしておくことをお薦めします。実際に自分で観察して得られた確かな情報です。貴重な宝物になること間違いなしです。
下呂温泉にある下呂発温泉博物館では、オリジナルお土産として『温泉手帳』が500円で売られています。訪れた温泉の記録が簡単にできるように工夫されており、温泉巡りをされている人にとってはとても役に立つと思います。