01 あたたかい温泉が湧き出すしくみ
温泉法の定義では、泉温が25℃以上あれば「温泉」ということになりますが、含有成分量が規定値以上であれば温度に関係なく「温泉」に該当します。すなわち、温度または含有成分の量で温泉かどうかが決まります。そのため、「冷たい温泉」というのも存在する訳ですね。今回は、県内の温泉のうち、冷たい方ではなく「あたたかい温泉」がどのようにしてできるのかということについて考えてみたいと思います。
地下であたたかい温泉ができあがるためには、「地下に何らかの水が豊富に存在すること」、「地下の水に何らかの成分が溶け込むこと」、「地下の水が何かの熱によって温められること」が必要です。さらに、地下でそのようにしてできあがった温泉が地上に湧き出すためには、地下から地上につながる「断層などの通り道」が必要です。最近は1000m以上掘削して動力(ポンプ)で温泉を汲み上げることが多いのですが、そのような場合には「掘削した穴」が温泉の通り道ということになります。
温泉は、火山地帯やその周辺で湧く「火山性の温泉」と、火山が存在しない地域から湧く「非火山性の温泉」に分けられます。
1 火山性の温泉が湧き出すしくみ
岐阜県博物館の地質担当学芸員であった頃、幾度となく調査で白川村大白川を訪れました。大白川は白山の岐阜県側の登山口としても知られていますが、恐竜化石の産出場所でもあります。白水湖を経て奥の谷にさしかかると、上流から硫化水素臭が漂い始めます。さらに谷を上ると、やがて地肌をむき出しにする熱水変質帯が現れます。そこでは、わずかな噴気や小規模ではありますが温泉の自然湧出を見ることができました。岐阜県にもこのような火山活動による噴気地帯が形成され、熱い温泉が自然に湧き出している場所があることに感激したものです。
下の図1は、火山性の温泉が湧き出すしくみの一例を、簡単な模式図で表したものです。あくまでもイメージ図のため正確性を欠く部分もありますのでご了承ください。
活火山の地下数㎞から十数㎞の所には「マグマだまり」が存在しています。そもそもマグマは周りの岩石よりも密度が小さく軽いため、地下深くからどんどん上昇していき、その途中で鉱物へと変化が進んでいきます。そのため、マグマ自体の密度が大きくなり周りの岩石の密度と等しくなると浮力が低下し、特定の深度に達するとそれ以上上昇できなくなってしまいます。すなわち「マグマが溜まる場所」が出来上がるわけです。それが「マグマだまり」です。
マグマだまりには「高温(およそ800℃~1200℃)のマグマ」や、マグマから分離した「高温の熱水」や「高温高圧の火山ガス、水蒸気」などが含まれていて、断層のような割れ目などを伝って常に地上へ出ようとしています。
地下の帯水層と呼ばれる水を蓄えやすい地層や、岩石中に存在する断層などのさまざまな割れ目には、雨水などがしみ込んでできた地下水がたまります。マグマだまりの中の高温の熱水や火山ガスなどが帯水層や割れ目の中の地下水に接触すると、熱水や火山ガスから熱や様々な含有成分が地下水中に置き換わり、高温の温泉水ができあがります。
地下水が熱水やガスなどに接触しない場合でも、マグマなどの熱源から熱が伝わり、地下水が温められる場合もあります。高温の温泉水は地下水などに比べると軽いため、断層などの割れ目を通って上の方へ上がっていきます。ちょうどコンロで温められている鍋の中の水が対流を引き起こすように、マグマの熱源により地下で水の対流が起こるわけです。したがって、断層などの割れ目がたまたま地上までつながっていれば、温泉水は地上に自然湧出することになります。また、地下の“温泉水”を蓄える割れ目までボーリングをすれば、地下深くから高温の温泉水を得ることができるわけです。
岐阜県内には、焼岳(ランクB)、アカンダナ山(ランクC)、御嶽山(ランクB)、白山(ランクC)の4つの活火山が存在しています。熱源がこれらの活火山であると考えられている「火山性の温泉」は、新穂高温泉、平湯温泉、新平湯温泉、福地温泉、栃尾温泉、濁河温泉、大白川温泉、大白川温泉から引湯している平瀬温泉などです。このうち、奥飛騨温泉郷の新穂高温泉、平湯温泉、新平湯温泉、福地温泉、栃尾温泉は焼岳(アカンダナ山の可能性も含めて)が、濁河温泉は御嶽山、大白川温泉や平瀬温泉は白山が熱源であると考えられています。
文頭で、白山の麓の大白川において温泉の自然湧出が見られることを紹介しましたが、この他に、焼岳の岐阜県側の白水谷周辺や、御嶽山の岐阜県側の7合目に当たる濁河温泉周辺の谷沿いにおいても火山性の温泉の自然湧出が見られます。
目立った活動的な火山が存在しないような場所でも、地下に存在する火成岩の高温岩体からの熱の伝導によって地下水があたためられ、高温の温泉が出来上がる例が知られています。
80℃以上の高温の温泉が湧く下呂温泉は、かつては、温泉街から20km以上離れた御嶽火山が熱源であると考えられていました。その後の研究により、温泉街の背後にそびえる湯ヶ峰火山が今からおよそ12万年前~10万年前に活動していたことが明らかになり、この火成岩体が地中で完全に冷え切っておらず、下呂温泉の熱源となっている可能性が高いと考えられるようになりました。
ちなみに、下呂温泉のある源泉は、水素の放射性同位体であるトリチウムの濃度の調査によって、「雨水などの天水が地中にしみ込み、それが温められて再び地上付近に湧出する」一連のサイクルが最低40年以上であるということが示されています。そういったサイクルが長いのか短いのかは別として、温泉地においては、温泉の過剰採取によってサイクルのバランスを崩すことがないように考慮する必要があります。
非火山性の温泉が湧き出すしくみ
(1)大深度掘削によって得られる非火山性の温泉
昭和の終わりころから次々と誕生しはじめた新しい温泉施設の多くは、火山などと全く無縁の山間部や平野部などにあります。東京の大手町や岐阜駅内といった、便利な都市の中心部にもこのような温泉が誕生しています。
このような温泉では、なぜ井戸水と違って比較的高温の温泉が得られるのでしょうか。
一般に、地下へ100m深くなると温度がおおよそ3℃(平均値)高くなることが知られています。これを地下増温率又は地温勾配と言います。新しく誕生する非火山性の温泉のほとんどがこの地下増温率のメカニズムによるもので、多くの温泉は1500m前後掘削して、地下増温率によって地下深くで温められた温泉水(深層熱水)を採取しています。
ただし、どこでも掘削すれば高温の深層熱水が得られるかというとそうでもなく、地下に豊富な地下水が貯えられている場所があることが不可欠となります。
図2のように、100m深くなる毎に温度が約3℃上昇するので、1500m前後掘れば理論的には「地上での水温+45℃」ぐらい高温の温泉が期待できそうです。しかし、深層熱水が地上まで上がってくるうちにパイプの周りに存在する地下水によって冷却されて温度が低下し、42℃以上の高温泉が湧出する例はそれほど多くありません。
濃尾平野南西部の木曽三川が集まる下流域周辺には大深度掘削による温泉が数多く存在しています。この辺りでは地下増温率が高く、三重県や愛知県には60℃前後の温泉もあります。地下水が豊富で、湧出量も多いのが特徴です。
大深度掘削によって温泉を採取している県内の温泉のうち、掘削深度や泉温が公表されている温泉の一部を表1に示しました。なお、データは公表された時点のものであり、10年に一度の再分析により現在の泉温は変化している可能性もあります。
表1 大深度掘削による温泉の掘削深度と泉温
| 所在地 | 温泉名 | 掘削深度 | 泉温 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 海津市 | 海津温泉 | 1400m | 46.1℃ | 公式HP(R8年8月閲覧) |
| 海津市 | 南濃温泉 | 1500m | 29.4℃ | H20年分析書(館内掲示) |
| 養老町 | 養老温泉 | 1700m | 40.5℃ | H20年分析書(館内掲示)、館内掲示物 |
| 安八町 | 安八温泉 | 1500m | 30.2℃ | 西美濃広域観光推進協議会HP(R8年8月閲覧)、H23年分析書(館内掲示) |
| 羽島市 | 羽島温泉 | 1300m | 36.8℃ | H28年分析書(館内掲示) |
| 揖斐川町 | 久瀬温泉 | 1502m | 29.8℃ | 公式HP(R8年8月閲覧)、R1年分析書(館内掲示) |
| 揖斐川町 | 谷汲温泉 | 1000m | 23.2℃ | R1年分析書(館内掲示)、公式インスタグラム(R8年8月閲覧) |
| 池田町 | 池田温泉 | 1500m | 29.7℃ | 公式HP(R8年8月閲覧) |
| 池田町 | いけだゆげ温泉 | 1300m | 30.1℃ | 公式Facebook(R8年8月閲覧)、館内掲示物 |
| 池田町 | 池田さくら温泉 | 1600m | 29.1℃ | 公式HP(R8年8月閲覧) |
| 関市 | 武芸川温泉 | 1500m | 29.1℃ | H28年分析書(館内掲示)、公式HP(R8年8月閲覧) |
| 可児市 | 湯の華温泉 | 1800m | 25.0℃ | 『いきがい創造湯めぐり本 ゆらん』(2018~2019版) |
| 土岐市 | とき温泉 | 1500m | 28.1℃ | 公式HP(R8年8月閲覧)、R4年分析書(館内掲示) |
| 中津川市 | 付知峡倉屋温泉 | 1330m | 42.0℃ | 中日新聞web(R5年2月26日掲載)、R6年分析書(館内掲示) |
何年も前に、安八温泉の貴重なデータをいただきました。安八温泉は表1のように1500m掘削(大深度掘削)して30.2℃の温泉を採取することに成功しました。泉質は、無色透明のナトリウム―塩化物泉です。図3は、安八温泉の掘削深度と地質を示したものです。
安八温泉提供資料を改変し筆者作成
安八温泉の地下400m前後までは、沖積層~洪積層の未固結の砂、砂利、泥などからなる堆積物です。それより下(下位)は東海層群の半固結の砂岩、礫岩、泥岩からなり、地下970mになると美濃帯中古生層のチャート、砂岩、泥岩などの硬い岩盤に到達することがわかります。硬い岩盤をさらに530m程掘り進んで、地下1500mあたりに溜まっている深層熱水を汲み上げています。
濃尾平野の安八温泉より南または南西に存在する羽島温泉や養老温泉、海津温泉の辺りでは、安八よりも東海層群の地層が厚くなっていると考えられ、泉質も顕著に変化しています。
地下の地層の中には、地層が海底に堆積するときに閉じこめられた太古の海水が存在することがあります。これはいわゆる“化石海水”と呼ばれるものです。非火山性の温泉の中には、大深度掘削によって地下の化石海水を汲み上げている所もあります。このような温泉では、海から遠く離れた火山のない場所にも関わらず、塩辛い塩化物泉が湧き出しています。県内では、「ナトリウム・カルシウム―塩化物泉」の海津温泉や南濃温泉などが該当します。
(2)深部流体起源の非火山性の温泉
岐阜県の温泉の話ではありませんが、紀伊半島には火山が一つも存在しないにもかかわらず、白浜温泉、勝浦温泉、湯の峰温泉などをはじめ、多くの高温泉の存在が知られています。中には100℃近い温泉を湧出する所もあります。
これらの高温泉の熱源についてはよくわかっていませんでした。紀伊半島南部の三重県と和歌山県の県境付近に、熊野酸性岩という第三紀の火成岩体が存在していることから、「その岩体がまだ完全に冷え切っておらず、温泉の熱源となっているのではないか」と考えられていました。しかし一方では、この火成岩体が今から1200万年前のものであることがわかっており、「熱源として考えるには古すぎる」という見解もありました。
兵庫県の有馬温泉も、近くに火山がありませんが100℃近い高温の温泉が湧出しています。その熱源についてはよくわかっていませんでしたが、近年、ヘリウムの同位体比(3He/4He比)などを利用した研究などにより、有馬温泉の温泉水が、日本列島の下にもぐり込むフィリピン海プレートを構成する岩石からの脱水作用で発生した高温の熱水(深部流体)に由来するものであることが明らかになってきました。同様に、紀伊半島などの高温泉についても、フィリピン海プレートの脱水作用に由来するものであることが明らかになってきました。
海底付近でプレートが生まれるとき、同時に海水がたくさん取り込まれています。フィリピン海プレートが日本列島の下に深くもぐり込むにつれて高い圧力がかかるために、プレートの岩石から脱水が起こるというものです。岩石の脱水によって発生する“水”は数100℃という高温の熱水であり、地下100㎞程で熱水が発生すると上昇して上部にあるマントルの岩石を溶かしてマグマができます。しかし、有馬温泉などの起源となっている熱水は、地下40㎞~80㎞という浅い部分で発生している上、プレート周辺の温度が低いため、マグマを生成せず、熱水のまま地上に向かって上昇したと考えられます。プレートで発生した数100℃という熱水は、地上に湧き出すまでの間に地下水と一緒になって温度が低下し、温泉水となります。
岐阜大学は、1998年から現在まで、飛騨市神岡の割石温泉の泉源において、地下水観測システムを設置して、湯量や泉温およびラドン濃度などの観測を続けてきました。その結果、観測期間内における地震の発生と湯量や泉温等の変化に顕著な相関関係が認められるなど、多大な研究成果を挙げています。さらに、そういった研究の一環として、割石温泉についてもヘリウムの同位体比(3He/4He比)が調べられました。その結果、割石温泉から湧出する温泉水の約20%が深部流体起源によるものであることが明らかになりました。
地下深くのプレートで生まれた温泉の源(深部流体)が、断層などの存在で偶然つながった通り道を通って飛騨神岡の大地に湧き出してくるという事実、すごいですね。
文 献
・北岡豪一(2001):下呂温泉におけるトリチウム解析,続 温泉よ永遠なれ 下呂温泉事業協同組合30年史,137-177.
・風早康平他(2014):西南日本におけるスラブ起源深部流体の分布と特徴,日本水文科学会誌,44,1-14.
・地質調査総合センター活断層・火山研究部門深部流体研究グループ(2024) :地質標本館特別展「プレートテクトニクスがつくる なぞの温泉『深部流体』」ブックレットpp28.
・田阪茂樹(2016) :1976年から2003年の割石温泉の湯量観測,東濃地震科学研究所報告, 36,53-64.
・「安八温泉の掘削深度と地質、坑内断面図」(施設内掲示)

執筆者
古田 靖志
温泉研究者。下呂発温泉博物館 名誉館長。温泉科学の研究と教育普及活動に取り組む。

